2010年1月18日

Drop





急いでいた俺は車を駐車して、横断歩道を小走りで横切り、道を下った。

そのまま300メートルほど行った交差点で横断歩道の信号待ちをしていると、交差点に近づいてきた一台の車が青信号なのに停車し、クラクションを鳴らした。

20代と思しき女性が窓を開け、こちらに向かって何か叫んでいる。

近づいてみるとこう言った。

「あなた、さっきあそこの交差点で鍵を落としたわよっ!」


まさか?

鍵の定位置である左のポケットに手をやると確かに無い。

無くした??

車に乗れない???


一瞬どうして良いのか解らず、呆然としている俺に、彼女は車に乗るように言った。

助手席には母親らしき女性が座っている。

思わず後部座席に体を滑り込ませた俺に、彼女は興奮気味にまくしたてた。

「私があの交差点で信号待ちをしてたら、あなたが横断歩道で鍵を落としたのを見たの!日産の車でしょ???慌ててクラクションを鳴らしたけど、気付かなかったから。どうしよう?って考えてあなたが行く方向へ迂回して先回りしてきたの。ピンクの派手なジャケットを着てたから見失わなかったわ!」

一通り話すと、助手席の女性と大笑いしだした。

俺は感謝の気持ちでいっぱいで、一緒には笑えなかったけど本当に素敵な笑顔だった。


車を停めた交差点までのドライブは瞬く間に終了し、横断歩道の鍵を拾い上げた俺は彼女達に感謝の気持ちを伝えたかったけど、思うような文章が口からは出てこなかった。

しかし彼女達は「気をつけてね!」と言い残し、颯爽とビルの合間を走り去っていった。


まるでシカゴの風のように...。







TSC

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